研究概要 |
蛋白質リン酸化反応の視点から細胞増殖制御に関する研究を進め以下を明らかにした。1.Tobの研究(1)次の3点より、tobを癌抑制遺伝子として位置づけた。(1)Tobは細胞増殖抑制活性を持つ。(2)Tob欠損マウスは発癌性が亢進している。(3)Tobはヒト癌の多くで発現低下している。(2)Tobは増殖刺激依存的に活性化されるErk1/2でリン酸化され、増殖抑制活性を失う。(3)以下によりTobが転写制御に関わることを示した。(1)HDACと会合してcyclin D1遺伝子等の転写を抑制する。(2)Tobは骨芽細胞においてSmadsと会合し、転写レベルでBMPシグナルを負に制御する。(3)TobはNOT蛋白質群(Cnot1-10等)をコアとする巨大転写因子複合体と会合する。NOT蛋白質群のうちのCnot7は、RXRβと相互作用して精細胞の分化に関わり、Cnot7欠損マウスはRXRβ欠損マウス同様精子形成不全となる。(4)Tobは核内外移行シグナルを有し、細胞質ではpolyA結合蛋白質と会合してIL2 mRNA等の翻訳を制御する。2.チロシンキナーゼの研究(1)Cbl-cはv-Srcのユビキチン化依存的分解を誘導し、v-Srcによる細胞癌化を抑制する。(2)受容体型チロシンキナーゼALKに対するagonisticモノクローナル抗体を作成した。この抗体刺激によるALKの活性化は神経芽細胞腫由来培養細胞の増殖、分化を促進する。(3)ALKはSNT2アダプター蛋白質を介してシグナルを細胞内に伝える。(4)SNT2はKi-1リンパ腫の原因となる活性型ALKが細胞を癌化する上で重要である。3.M期キナーゼの研究(1)ハエ癌抑制蛋白質のヒトホモログLATS1/2キナーゼの過剰発現は、M期進行停止を導く。(2)LATS2やLATS2標的LIMドメイン含有蛋白質AjubaをRNAiで発現抑圧したHeLa細胞では、紡錘体の形成阻害と異常染色体分配が観祭される。(3)Ajubaはβ-cateninと相互作用しWnt/Winglessシグナル伝達を負に制御する。(4)キネシン様蛋白質KidのCdc2キナーゼによるリン酸化が、染色体の安定分離とM期進行に必須である。 以上、癌抑制遺伝子産物TobやLATS1/2、またALK, Src, Cdc2キナーゼによる細胞増殖制御の理解を深めた。
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