研究概要 |
N-WASPにはverprolin(V),cofilin(C)様の配列と酸性アミノ酸に富む領域(A)がC末に存在した。その部位の欠失はフィロポジア形成能を失うことやV領域にアクチンが結合し、CA領域にアクチンの重合を行う複合蛋白質、Arp2/3が結合することからこの部位が重要な役割を果しているのであろうと考えられた。様々なN-WASPのコンストラクトを作成して、Arp2/3複合体によるアクチン重合への影響をin vitroで調べたところ、VCA領域が最少必要なArp2/3複合体活性化領域であった。しかし全長のN-WASPによるArp2/3活性化はVCA領域のみの場合程強くなく、他の因子が必要であると考えられた。驚いたことにこの系にCdc42とPIP2を入れるとVCA蛋白と同程度までArp2/3によるアクチン重合を促進した。これらの事実からN-WASPは静止期にはAsh/Grb2などのアダプター蛋白質と複合体を形成して存在する。細胞が活性化され、チロシンキナーゼが活性化されると、チロシンリン酸化部位にリクルートされ膜近辺でCdc42とPIP2がN-WASPに結合する。するとN-WASP分子が開裂して、VCA領域が露出する。その結果、Arp2/3複合体がCA領域に結合してアクチン重合を促進し、フィロポジア形成に至る、と考えられた。N-WASPのverprolin,cofilin様ドメインは直接アクチンフィラメントと結合し、その部位の欠失は機能を失ってしまうので、重要な役割を果していると考えられた。そこで、verprolin,cofilin様ドメインを持つ新しい蛋白質を検索した。すでにデータベニス上に機能は分からないが、verprolin,cofilin様ドメインを持つ蛋白質の記載があった。この蛋白質を解析したところ、膜ラッフリング形成にかかわっている蛋白質であったので、WAVEと名付けた。WAVEをRacとともに発現させると膜ラッフルの形成が見られ、WAVEはラッフリング部位に局在した。WAVEはRacとは直接結合しなかったが、両者を発現させた細胞において、WAVEはRacと複合体を形成した。これらの結果から、WAVEはRacの下流にあって、膜ラッフリング形成に関与する蛋白質であると結論した。このようなフィロポジアやラメリポジアの形成は細胞が運動、移動する際に細胞先端部で引き起こされる現象であり、細胞の浸潤、転移に関与していると考えられる。今後N-WASPやWAVEの細胞浸潤、転移への役割について明らかにしていきたい。
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