研究概要 |
本研究では,がん抑制に関連する因子の遺伝子間,蛋白質間相互作用とがん化の関係を分子レベルで解析すると共に,細胞個々における遺伝的な変異に加え,後生的な要因による遺伝子発現ネットワーク機構について解析し,より多角的にがん化の分子機構を解明することを目的として研究を遂行してきた.具体的には,構成的に産生されている微量のIFN-α/βによる"弱いシグナル"がIFN-γやIL-6などのシグナル増幅による細胞応答の制御や細胞のがん化制御という点で重要な役割をしていることを見出した.RANKLとIFN-γによる新しいシグナルクロストークの発見をはじめ,IFN系を介した破骨細胞の分化制御について明らかにし,転移性骨腫瘍による骨破壊制御という観点からの治療応用の可能性を見出した.IFN-α/βシグナルの負の制御因子であるIRF-2転写因子の欠損がCD8^+T細胞異常活性化による自己免疫を発症することを明らかにし,IFN-α/βによる新たなCD8^+T細胞応答の制御を明らかにした.この欠損マウスではIFN-α/βシグナルの過剰状態により樹状細胞の分化が抑制されているという結果も得た.一方で樹状細胞の成熟応答にはIFN-α/βシグナルが促進的に作用することを明らかにした.更に形質細胞様樹状細胞においては癌免疫における強力なアジュバントである非メチル化DNAによるIFN産生が全くIRF-7に依存していること,そのIFN高産生性メカニズムにシグナルの時空間的制御機構が存在していることも見出した.また,一方で炎症性サイトカインの産生誘導にはIRF-5が重要な役割を担っていることを明らかにした.p53関連における遺伝子発現機構という局面からもp53によって転写誘導される新規遺伝子Noxa及びReprimoを同定し,アポトーシスあるいは細胞周期を制御する因子であることを見出した.さらにNoxa遺伝子欠損マウスを作製し,Noxaのがん細胞選択的な治療応用への分子基盤の一端を明らかにした.このようにIFN-IRFそしてp53系に焦点をあてさらに解析を進めた結果,IFN-α/βシグナルがp53経路との新たな関連において細胞のがん化抑制に重要な役割を担っていることも見出し,がんと免疫との接点において新たな局面を展開することにつながった.これらの成果が,発がん抑制機構の理解に新しい展開をもたらし,今後のがん治療への応用に対して新しい視点からの分子基盤を提供することに貢献したと考えている.
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