研究概要 |
細胞円期制御機構は、癌化や老化を含めた細胞増殖を基盤とする生命現象にかかわり、その特異的阻害剤は基礎/応用両面から重要である。細胞周期のG1,G2停止を誘導するとともにさまざまなヒト癌を移植したヌードマウスに強力な抗癌作用を示すFK228について、その抗腫瘍活性の作用発現を詳細に解折した。FK228は、すでに我々の過去の解析によってヒストンデアセチラーゼ(HDAC)を阻害することが明らかになっている。 最近報告されたHDACの結晶構造解析と代表的なHDAC阻害剤との共結晶解析から、HDACの細長く深い活性中心ポケットの一番奥に存在する亜鉛イオンと相互作用することがHDACの阻害作用に必要であることが示されている。ところが、FK228には、活性中心ポケットに入り込むような化学構造が存在せず、どのような機構でHDACを阻害するのがが不明であった。そこでさまざざまな化学的、分子生物学的な解析を行った結果、FK228の分子内にあるS-結合が細胞内の還元活性によって開裂し、その結果生ずるフリーのSH基が活性中心ポケットに入り込み、亜釦と結合して酵素を阻害することを明らかにした。さらにSH体の活性型FK228は血中で不安定であり、すみやかに不活性化することから、FK228は安定に存在し、細胞内に移行してはしめて活性化する天然ののプロドラッグであることがわかった。このような活性化機構は、他の抗癌剤には例がない。また、多くの抗癌剤耐性化機構にグルタチオン(抱合体)の重要性が示され、耐性癌ではグルタチオンの細胞内濃度が上昇している例が多い。このような細胞に対してFK228じゃより強力に作用すると考えられ、FK228の臨床での有効性の原因の一つとなっていることが考えられる。今回の発見によって有効で選択性の高いHDAC阻害剤開発の基盤が整備されたと考えられる。
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