細胞の癌化は、細胞の増殖や分化を制御するシグナル伝達の調節が異常になることにより起こると考えられ、実際に細胞性癌遺伝子の多くはこうしたシグナル伝達系を構成する一員となっている。動物細胞において、癌遺伝子RASは受容体型チロシンキナーゼの下流で、MAPKKKであるRAFを活性化し、MAPKK-MAPKの活性化カスケードを介して、細胞の増殖・分化および癌化を制御している。このようなMAPK活性化カスケードは、酵母、線虫、ショウジョウバエから動物細胞にまで至る多くのシグナル伝達系において利用されている。 動物細胞のTAK1はMAPKKKファミリーに属し、TGF-βやIL-1等のシグナル伝達経路で機能することを明らかにしてきた。本研究では、IL-1によるNF-κBの活性化シグナル伝達経路の全容解明を目的とし、TAK1の役割、およびTAK1と周辺因子の関係の解析を行った。その結果、TAK1はIL-1によって上流因子であるTRAF6と結合して活性化され、2つの転写因子、NF-κBとAP-1、の両方の活性化に必須の働きをしていること、TAK1に結合する新規タンパク質TAB2がTRAF6とTAK1をつなくアダプターとして働くこと、TAB2の細胞内局在はTRAF6の上流因子であるIRAKによって制御されており、IL-1によるIRAKを介したTAB2の局在変化がTRAF6-TNB2-TAK1複合体の形成を誘導すること、この複合体形成によってTAK1の192番目のセリン残基が自己リン酸化され、TAK1が活性化されることを明らかにした。 TGF-β及びNF-κBシグナル伝達系は、癌化と関連していることから、これらのシグナル伝達機構の解析は、細胞の癌化の機構解明に大きく寄与することが期待される。
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