研究課題
本年度は研究成果のまとめにとりかかった。個々の研究者の作業としては、昨年に引き続き具体的な研究テーマについてのインテンシブな資料調査や研究作業を進めつつ、それぞれのテーマについて研究の詰めを行い、論文の執筆をおこなった。研究会においては、個々の研究成果について集中的な討議を行うのはもちろんだが、理論的枠組みや分析視角についての共有・確認をこれまで以上に重点的な課題とし、徹底化を図った。具体的には以下の通りである。鶴岡は、「宗教学とは、他人の宗教を理解しようとする学問である」という一般的な規定を出発点として、他者解釈における差異、疎隔の構成性、肯定性、創造性の問題、他者との対話可能性、恣意的解釈を排除する原理としての倫理性、といった問題点をめぐり、解釈学の問題系の中での宗教学の位置について考察した。田島は、あるドイツ人聖職者による、洗礼をめぐる身体論的シンクレテイズムの試みを題材としてヨーロッパのアジア化ルネッサンスの論理を、洗礼についての図像を古代から近世にかけて渉猟することをとおして明らかにした。月本は、古代イスラエルにおける一神教の成立過程について、クンティレト・アジュルードオストラカやヒルベト・エル・コム墓碑などの発掘資料、旧約聖書の記述などから、シリア・パレスチナのアシェラ崇拝を具体的な題材として解明した。池澤は、池澤が独自に「死者性の転倒」と規定する過程(古代における死者は強力な存在であり、神々の世界に由来する力を現世に流通させる宇宙の経営者であると同時に、救済の担い手であったが、死者が次第にその力を失っていき、逆に生者による救済を必要とするようになっていく、という過程)を、2〜6世紀の中国の事例をとおして実証した。
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