研究概要 |
社会生活を営む多くの人々にとってワーキングメモリは毎日を過ごすのになくてはならないシステムである.入力情報に対する選択,保持,想起,検索などの多くの認知情報処理と適応的行動はワーキングメモリがかかわっている. 言語性ワーキングメモリと深くかかわるCE(中央実行系)は最も注目される注意制御機構であるが,CEの脳内メカニズムについては前頭前野の背外側領域(Dorsolateral prefrontal cortex :DLPFC)や腹外側領域(Ventrolateral prefrontal cortex : VLPFC)に局在するのかあるいはワーキングメモリ負荷によってより広い領域に活性化が広がるのか明確ではなかった.しかし,今年度のわれわれのfMRIによる研究によれば,ヒトの場合とくにDLPFCは高いワーキングメモリをもつ被験者の場合に固有の活動を見せることが明らかになった.これは判断や保持などのCE的機能が言語の2重課題を遂行する場合に必要不可欠となることを示唆している.一方,VLPFCは側頭,頭頂連合野の視覚性・言語性ワーキングメモリや入力情報に対する選択,保持,想起,検索などの処理を行っていると推定されているが,今年度の研究においても特に言語処理についてはそれが確認された.まだまだ未解決のワーキングメモリの高次機能は多いが次年度には視覚ワーキングメモリ,空間ワーキングメモリや他の高次言語課題にも問題を展開して行く予定である.とくにfMRIを用いたワーキングメモリの研究はこれから急増するものと思われるが,われわれはあくまで,このようなワーキングメモリの心理モデルから出発して従来のわれわれのワーキングメモリ研究を裏づける脳内メカニズムを追求したい.なお昨年の日本心理学会第64回大会では,カーネギーメロン大学でfMRIを用いたワーキングメモリ研究を行っているJust,Carpenter両教授を招き本研究課題について問題点を論議した.
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