学術研究においては、社会調査が社会科学の実証研究において主要な研究方法のひとつであり、広く用いられているにもかかわらず、我が国では調査方法についての研究と教育が欧米諸国と比較して大幅に遅れている。殊に近年はグローバル化に伴い、調査データの国際比較が頻繁に行われるようになった。調査データの国際比較は日本の特殊性と一般性を理解するための有効な手段である。しかし、比較できないデータを形式的に比較しても意味はない。データの比較可能性を確保することが国際比較の大前提である。本研究では、日本の調査データの国際比較可能性をめぐる諸問題を次のような段階を踏んで研究した。 (1)国際的に調査データを共用する場合に極めて重要な、標本抽出、調査手法、尺度・質問項目の比較可能性および反応傾向(極端な回答を避ける傾向、どんな質問にも肯定的に回答する傾向など)について、国際比較調査データを分析・検討して問題点を洗い出す、(2)そうした問題の背景にある社会文化的因および日本の調査環境や技法の特殊性を複合的な研究方法を用いて明らかにし、可能な解決法を模索する。その結果、標本の代表性など日本の社会調査方法の強みが明らかになると共に、欧米で開発され世界で広く使われている多くの尺度の比較可能性の問題に解を見出すのは極めて困難で、むしろ国際比較統計の利用者にガイドラインが必要であることが示唆された。
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