研究課題
本研究は超並列計算機CP-PACSを用いて格子上の標準理論の研究の新たな展開を図ることを目的とする。本年度は略年次計画に従い以下の結果を得た。1.ドメインウォールフェルミオンを用いたQCD(DWQCD)について、カイラル対称性の回復と5次元方向の格子サイズN_5の関係を詳細に調べ、改善されたグルオン作用を用いた場合にはカイラル対称性の破れを特徴付ける"残留クォーク質量"が標準的なグルオン作用を用いた場合より約一桁小さくなることを見出した。2.DWQCDを用いてK中間子Bパラメータを精密に決定する可能性を詳細に検討した。上記1.のことからグルオン作用は改善された作用を用い、格子間隔/a=2GeVと3GeVでシミュレーションを実行した。前者ではN_5依存性と空間サイズLの依存性を解析し、これらに起因する系統誤差が十分小さいための条件と求めた。以上の結果を総合して、現時点でのDWQCDからのBパラメータの値は、Kogut-Susskind作用からの値と整合するが、後者の誤差の下端に位置している。3.K中間子のππ崩壊は、ΔI=1/2規則及び直接CP非保存を特徴付けるε'/εの値という重要問題を持つ。カイラル摂動論を用いればK→ππ崩壊振幅をK→π遷移振幅に関係付けることができる。このことを用いて後者をDWQCDにより求める試みを行った。グルオン作用としては標準作用及び改善された作用を用い、格子間隔1/a=2GeVにおいてクェンチ近似計算を実施した。後者については空間サイズ依存性の検討も行った。現在までの結果によれば、ΔI=1/2規則、ε'/εいずれに対してもI=0のペンギン型寄与が小さすぎる事を示唆する結果となっている。4.重いクォークに付随する系統誤差を制御する方法である時間空間非等方格子QCDをcharmoniumに対して適用しその有効性を探った。その結果幾つかの問題点があきらかとなり、現在理論的検討を進めている。5.有限温度QCDの状態方程式について、時間格子サイズN_t=6の計算を実施した。結果はKogut-Susskind作用の場合と良く似ており、特に高温側での極限値は連続理論のStefan-Boltzmann値と略一致する値となっている。
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