研究概要 |
軟X線領域の光エネルギーで価電子帯や浅い内殻を励起すると,光電子の運動エネルギーを数百eVより大きく取れるために,200eVから20eVにかけて極小をもつといわれる平均自由行程による表面敏感性をのがれてバルク敏感な光電子分光が可能である。これと並んでもう一つ重要なことはエネルギー分解能が十分高いことである。 本課題ではおもに電子相間の大きな系に対しての研究を行ってきた。これまでに単体Ybや種々のCe化合物について高分解能軟X線光電子分光研究を行った結果,表面敏感な低エネルギーでの測定では矛盾が残されていた電子状態に対して真のバルクの電子状態を明らかにすることに成功した。これらの系に加えて,さらにSm化合物,Pr化合物などの4f希土類系化合物の電子状態だけでなく,V, Mn, Fe, Cu, Ruなどの3d, 4d化合物についての研究も推進してきた。その結果,かなりの物質について,ダイアモンドやすりがけによる表面処理では、へきかいあるいは破断による表面とは異なり,素直にはバルク電子状態としては解釈できない結果が観測されることが分かってきた。つまり真性のバルク電子状態を明らかにするためには,高分解能バルク敏感な測定系を用いるだけではなく,それに加えてもっとも適切な表面処理要することを明らかにした。 高エネルギー電子に対しては波数の分解能はエネルギーの平方根に比例して悪化するがそれでも角度分解能を0.2度程度に取ればブリルアン域の数%の波数分解が可能である。単結晶へきかい表面で鏡面が得られる場合には、それゆえ新しい手法としてバルク敏感角度分解光電子分光が可能となる。我々は最初の例として1次元Cu-O鎖をもつSrCu02に対しての測定に成功している。エネルギーが低い場合は02pの励起断面積が圧倒的に強いが数百eVの励起では,Cu3dの励起断面積が1桁以上強くなるため,まったく異なるスペクトル形状や分散の振る舞いが見られた。
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