研究概要 |
強い電子相関を示す物質のフェルミ準位近傍の微細な電子状態を知る手段として光のエネルギーが極微小な赤外線を用いた赤外分光実験が有用であることに着目した。本研究の目的は,実験に用いる事が出来る強い電子相関を示す物質の多くが多結晶状態である現状を考え,その状態でもその物質が僅かでも良質な表面を持つ場合に赤外分光実験が可能な赤外顕微分光法を開発し,それを絶縁体から異常金属相を含む金属への物性の移り変わりを示すf電子系化合物に適用してフェルミ準位極近傍の電子構造の変化の詳細な情報を得ようとするものである。 本研究では今年度以下の研究を行い夫々成果を挙げた。 1.本研究の中心である「高圧下赤外顕微鏡分光法」の開発。このため,高真空中で稼動する赤外顕微鏡システムを設計する。設計のキーポイントは(1)赤外分光器からの赤外光強度を最大限に効率よく利用できるように出切るだけ明るい光学系を実現すること。(2)実験室光源での顕微鏡実験の空間分解能は光源の輝度が低いためにせいぜい50ミクロン程度であるので空間分解能の高さは追求せず顕微鏡内の試料回りの作業空間を広く取る。これは試料に高圧力を加えつつ低温での分光実験をするときに重要な実験条件である。これらを考慮し,赤外顕微鏡の基本設計を終了し,目指す性能に求められる光学部品の仕様決定と入手を全て完了した。 2.f電子系化合物の光学スペクトルの測定。先ず温度環境に応じて金属から絶縁体への電子相転移を示す典型的物質Culr_2X_4(X=S,Se)の電子構造を赤外スペクトルから明らかにした。 3.本研究の目的に適う高圧で金属へ移行する物質TmXとSmX(X:S,Se,Te)の結晶育成とその基礎物性測定。
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