研究概要 |
本研究は光のエネルギーが極微小な赤外線を用いた赤外分光実験が強い電子相関を示す物質の微細な電子状態変化を知る手段として有用であることに着目した研究である。本研究の目的は、先ず、強い電子相関を持つ化合物(d及びf電子系)についてその赤外スペクトルの温度変化を測定し、そこから得た詳細な光伝導度スペクトルの解析から温度誘起金属-絶縁体転移に伴う電子構造の変化を明らかにすること、次に、物質の格子定数を圧力によって連続的に変える赤外分光実験により、強相関電子系に特有の局在電子と伝導電子間の混成度を人為的に変えてその電子構造の変化から物性発現機構の知見を得ることである。本研究では今年度以下に述べる実験研究を行い夫々成果を挙げた。 1.d電子系化合物の赤外スペクトルの測定。 先ず温度環境に応じて金属から絶縁体への電子相転移を示す典型的物質CuIr_2XS_4及びCuの代わりにZnを置換した一連のCu_xZn_<1-x>Ir_2X_4化合物(x=0-0.5)の詳しい赤外スペクトルの温度変化からその電子構造を明らかにし、その成果を強相関電子系に関する国際会議(SCES02、Polland)で発表した。2価のZnイオンのドープはホールキャリヤーに対して電子ドープの効果を持ち、そのフェルミ準位を変化させる。本研究ではそれによる電子状態の明確な変化を、観測された帯間遷移ピークの低エネルギー側へのシフト及び低エネルギーピークの分裂として補足し、その置換効果を明らかにした。 2.高圧下赤外顕微鏡分光実験。 大型放射光施設SPring-8に申請者が主導して建設した赤外観測システムに設置の赤外顕微鏡ステーションにおいて絶縁体である4f電子化合物YbSが圧力の下で価数揺動状態を経て金属に変わる過程の高圧下の赤外スペクトルを測定することに成功し、その成果を強相関電子系に関する国際会議(SCES02、Polland)で発表した。印加圧力は定圧から16万気圧まで。吸収端が圧力によって潰れて行く様を観測し、その減少量の圧力依存係数を正確に決めた。 3.本研究の目的に適う高圧で金属へ移行する物質TmXとSmX(X : S, Se, Te)の単結晶育成及びその基礎物性測定と品質評価(落合)。
|