研究概要 |
地層の累重様式のダイナミクスを明らかにするため,100年程度の誤差で年代が求められる放射性炭素年代測定法を完新統に適用した.わが国の完新統は,欧米諸国のそれが未だに海進期にあるのと違い,海進と海退を経験したひとつの堆積シークェンスを構成した地層であるため,解析結果が累重様式のダイナミクスを知る貴重な事例となる. ある地点での地層の累重速度を示す「堆積曲線」は堆積システム毎に特徴的なパターンをもつ.海浜-外浜システムでの累重速度は,海進期に速く(5〜10mm/y),高海水準期に遅く(0.5〜2mm/y),海退期に再び急速になる.内湾システムの累積速度は,海進のごく初期に速く(5〜10mm/y),海進が進むと遅く(0.5〜2mm/y),海退期の離水時に急速になる(3〜25mm/y).三角州システムでの累積速度は,海進初期に速く(10〜25mm/y),海進期から高海水準期にかけて遅く(0.5〜2mm/y),海退期に前進に伴って急速になり(3〜10mm/y),離水後は低下(0.5〜1mm/y以下)する.バリアーシステムでは海進時に厚いバリアー本体が急激に(20〜80mm/y以上)累重し,それ以外ではゆっくりと(0.5〜4mm/y)堆積する.河川システムでは流路堆積物の堆積速度(5〜10mm/y)は氾濫原堆積物の10〜100倍も大きい.湖システムの堆積速度(0.5〜2.5mm/y)は一定で,海水準変動に影響されない. 堆積シークェンス内での累積速度の変化は海水準変動と関係しないし,細粒物の層準が堆積速度が低い層準に一致しないことが多い.「細粒物の堆積」と「累重速度の低下」さらに「海水準の変動」は,独立して発生する現象である.細粒物の堆積は堆積システム内での堆積中心に,累重速度は堆積場や堆積環境に支配される.それらが海水準や堆積物供給量の変動に影響される場合もある.
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