研究概要 |
地球内部の動的過程を支配している水の構造と物性を総合的に検討するため,本年度は,近接場効果を利用した新しい顕微分光装置を開発し,また,水の構造に対する化学組成の影響を検討した. 1)近接場顕微分光装置の開発 まず,主要設備である近接場顕微分光装置の仕様設計を行い,組み上げた.この装置は,光が回折現象を起こさないような試料表面のごく近傍までファイバープローブを近づけ光を照射し,試料表面の100ナノメータ程度のごく微小領域で急速に減衰する近接場光の信号をとりこんで分子種の情報を得ることができる. 2)水溶液の化学組成の水の構造・物性への影響 水の構造が水溶液の化学組成によってどのように影響されるかを調べるため,NaClと炭酸の濃度を変化させた水溶液を準備し,減衰全反射赤外分光法によって水の赤外吸収スペクトルの変化を検討した.その結果,NaClの濃度が濃いほどOH伸縮振動の吸収帯は高波数側にシフトし,水はやわらかくなり,一方,炭酸では逆の結果,すなわち水はかたくなった.この結果は従来から言われてきた炭酸及びNaCl溶液は結晶表面でのぬれ角(接触角)の大小と調和的である. 3)天然試料での予備測定(変成岩の流体包有物) 天然の地殻・マントル物質については,まず,変成岩試料の岩石薄片を作成観察し,既存の顕微赤外分光計を用いて,水の分布の数十数百ミクロン領域での予備測定を行った.特に変成岩石英中の流体包有物について,ラマン分光などでCO2の存在を確認し,またNaCl塩濃度を確認したものに対して,顕微赤外測定を行ったところ,NaCl濃度の高いものではOH吸収帯が高波数側へ,CO2に富むものでは低波数側へシフトし,上記の人工水溶液の減衰全反射赤外分光結果と調和的であった.従って,実際の地殻内部の流体の構造は化学組成によって影響を受けることが明らかとなった.
|