研究概要 |
地球内部の動的過程を支配している水の構造と物性を総合的に検討するため,本年度は,近接場効果を利用した新しい顕微分光装置の開発を継続し,また,天然岩石中の水分布の詳細を既存の顕微赤外分光計により測定した. 1)近接場顕微分光装置の開発 近接場顕微分光装置により,めのう,含水鉱物などでの水の赤外スペクトル測定を行い,また水の分布を調べた.空間分解能250ナノメータ程度で,異なる水の状態と分布が示唆された.様々な標準試料による定量性の検討を継続している. 2)地殻・マントル物質での水分布測定 地殻・マントル物質について,既存の顕微赤外分光計を用いて数十数百ミクロン領域での測定を行い,水の分布を定量的に解析した.まず,低変成度珪質変成岩においては,水が主に粒界にあり,含水量は粒径に反比例することが示唆され,平均の粒界の幅は10ナノメータ程度と予想された. 地球深部への水の循環を調べるため,世界で最も深部(約200km)までもぐりこんだ超高圧変成岩中の水分布を調べたところ,輝石の欠陥に伴う水が2000ppm程度含まれていることがわかり,沈み込みに伴い多量の水が地球深部へもたらされていることが示唆された.一方,実験室で再現した下部マントル物質における水の分布の測定を行ったところ,従来水がないとされていたマントル物質中の不純物に伴う欠陥として,水が2000ppm程度含まれていることが明らかとなり,この水が下部マントル全体に蓄えられるとすると,それは現在の海水の約5倍もの量となる. 3)粒界薄膜水の測定 NaCl結晶にはさまれた人工薄膜水の顕微赤外その場観測を,ユトレヒト大学と共同で行い,NaClの結晶方位によって,水の構造化の有無に差がみられた. さらに,地球ダイナミクスにおける水の役割に対する総合的な検討についても,粒界薄膜の「かたい」水が深発地震の原因の1つである可能性を見出し,国内外で発表し,総合的な論文も発表しているところである(Nakashima et al.,2001 ;中嶋,2002物理学会話「水の物性と地球ダイナミクス-地球内部の固い水と地震の発生?-」).
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