研究課題
基盤研究(A)
金属錯体の配位原子への水素結合は、金属-配位子間のdπ-pπ相互作用を変化させ、錯体の反応性などの性質を制御することが硫黄配位子と共に酸素配位子をもつ金属錯体についても明らかになり、次の1)~5)の成果が得られた。1)硫黄配子をもつMoおよびWの酵素モデル錯体では、水素結合により酸化還元電位の正側シフトにもかかわらず、Mo(IV)から基質の酸素引抜き反応活性は高くなる。一方、Mo(VI)による酸素添加反応活性は水素結合があると著しく低下することから、酸化酵素のMoコファクターにもこのスイッチングが働いているものと考える。2)P450モデル錯体においても水素結合により、酸化還元電位の正側シフトとFe(III)の安定化がおこり、Fe(II)では水素結合の切断がスイッチして起こることでそれぞれの酸化状態の安定化する。この水素結合のスイッチはペプチド鎖のNH…S水素結合をつくるヘアピンターン構造とα-ヘリックスとの競争で起こることを提唱した。3)カルボキシラートやフェノラートの金属錯体についても同様の結果であり、共有結合性の低いといわれているCa錯体においても、錯体が中性であるとき、水素結合によりCa-O距離の短い錯体が見出された。4)配位子自体について、アミドNHがカルボン酸、チオール、フェノールの基底状態で酸素や硫黄原子の近傍にあるとき、脱プロトン化は起こりやすく、pK_aは低下することがわかった。脱プロトン化のエネルギー障壁の高い配位子をもつ錯体では、錯形成定数の増大が起こる。そこで、このpK_aの項を導入した錯形成定数の式logβ=logK-pK_aを考えた。疎水性環境下では水素結合の形成と切断による差が大きく、錯形成定数に大きく影響する。5)バイオミネラルの高分子配位子とCa無機結晶の境界面のモデル複合体を合成して調べ、その強固な結合はこのpK_aのシフトと共有結合性によることを示した。
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