研究概要 |
本研究では立体的に堅固な配位子を新規に合成し、これを用いて、今まで実験的に構造を明らかにした例は存在しなかった超原子価5配位炭素化合物の合成と構造解析に成功した。さらに同周期の典型元素であるホウ素についても5配位化合物の合成と構造解析を行い、これらの化合物の構造の系統的な比較を行うことでいくつかの新しい知見を得ることができた。 1.剛直なアントラセン骨格を持つ新規平面性3座配位子の合成:アントラセン骨格の1,8-位に非共有電子対(酸素・窒素・リン)を持ったヘテロ原子を配位原子として有する平面3座配位子をデザインし、完全新規ルートによりそれらの合成に成功した。 2.超原子価5配位炭素化合物の合成とその構造:合成した1,8-位に酸素原子を有する3座配位子から、Pd触媒によるCO雰囲気下でのエステル化反応を行った。さらに、エステル体をMeerwein試剤と反応させることにより目的の対称的なカチオンの生成に成功した。カチオンは黄色の板状結晶として単離でき、単結晶X線構造解析によりその構造を明らかにすることができた。炭素周りは典型的なsp2混成でアントラセン上の2つのメトキシ基の酸素原子と合わせると、他の5配位典型元素化合物に見られるtrigonal bipyramidal構造をとっていることが明らかになった。中心炭素とapical方向の酸素原子との距離は2.43(1),2.45(1)Åであった。このC-O相互作用の程度を具体的に見積もるために計算化学によるアプローチも行った。これらの実験および計算結果によりこのカチオンは初めて構造決定された超原子価5配位炭素化合物であることが確認できた。 3.超原子価5配位ホウ素化合物の合成と構造:同様の方法で、対応するホウ素化合物を合成し単結晶X線構造解析によりその構造を明らかにすることができた。ホウ素上にメトキシ基を有する化合物は前述の超原子価5配位炭素化合物のC-O距離と同様のB-O距離を有しているほぼ対称な5配位構造であった。フッ素置換化合物はB-O距離の明らかな短縮が観測でき、tightな5配位構造であることがわかり、結合から相互作用の連続性の一端を観測できた。
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