研究概要 |
高等植物の分化の特徴は細胞の柔軟性にあり,これを支えているのが可逆的なオルガネラの変換能力である.中でも液胞は植物の生長・分化の過程や環境の変化に応じて大きく変動するオルガネラである.液胞の分化は,植物の細胞分化や細胞死に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた.高等植物の栄養器官にみられる分解型液胞(Lytic vacuoles)は細胞内の不要成分の分解に関わる.本研究では,液胞タンパク質の機能発現に関わる液胞プロセシング系の解明を目的として研究を進めており,今年度は下記の成果を得た. シロイヌナズナの幼植物体の表皮細胞に新規のオルガネラを見出した.表皮細胞に特異的に存在するこのオルガネラ(0.5x5μm)は粗面小胞体由来であることから,ERbodyと命名した.ER bodyは内部に液胞プロセシング酵素やRD21というストレス誘導型のプロテアーゼ前駆体を蓄積している.塩ストレスを与えると,ER bodiesは速やかにLytic vacuoleと融合することが明らかになった.幼植物は生長した植物体と異なり,外界からのストレスが個体の生死に関わる.このような幼植物の表皮にプロテアーゼを蓄積し,傷害やストレスに予め備えるというシステムは,、マクロファージを持たない植物が獲得してきた'生体防御や細胞死にリンクした細胞内分解系,としてとらえることができる.現在,ERbody形成不全の変異体の選抜を終了し,その原因遺伝子の単離を行っている.
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