研究概要 |
本研究では、従来の半導体量子構造と新たに創生されつつある強磁性半導体との融合構造に基礎を置き、そこでの(1)電子のスピンコヒーレンスの顕示と外場による制御、(2)核スピンや磁性イオンとの相互作用の解明と制御、さらに(3)スピンに依存する電子・光物性を活用した新しいデバイスの作製を目的として研究を進め、以下のような成果を得た。 1.強磁性半導体(In,Mn)Asをチャネルとする電界効果トランジスタ構造を作製し、その正孔密度のゲート制御を確認した。さらに、正孔濃度を変化させることにより、温度を一定に保ったまま、磁性を制御することに初めて成功した。 2.低温分子線エピタキシ法によって、自然界には存在しない閃亜鉛鉱型CrSbをGaAs上にエピタキシャル成長させることに成功し、それが室温で強磁性体であることを明らかにした。 3.強磁性半導体(Ga,Mn)Asをベースとする(Ga,Mn)As/(Al,Ga)As/(Ga,Mn)As3層構造を作製し、巨大磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗(TMR)など、磁気エレクトロニクスデバイスに応用されている現象を全て半導体で構成されたデバイスにおいて観測した。特に、TMRでは100%を超える大きな磁気抵抗比を得た。 4.(110)変調ドープGaAs/AlGaAs量子井戸構造を作製し、時間分解ファラデー回転測定によってスピンコヒーレンス時間を調べたところ、共鳴スピン増幅を観測し、低温でスピン位相緩和時間が10ns程度であることを確認した。さらに、レーザーパルスによって生成されたスピン偏極電子と核スピンの相互作用の共鳴現象を観測した。 5.p型強磁性半導体(Ga,Mn)Asとn^+-GaAsからなるスピンエサキダイオードを作製し、(Ga,Mn)Asの価電子帯から非磁性GaAsの伝導帯へのバンド間トンネルを用いたスピン偏極電子注入を確認した。
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