研究概要 |
本研究の目的は半導体量子井戸等をサブピコ秒レーザパルスで照射することで,コヒーレントな電荷双極子を形成し,これによりTHz帯の周波数を持つ電気信号を発生させること,またTHz電気信号を半導体微小共振器に印加し,共振器中のポラリトンモードを制御することであった.本研究ではこのために,コプレーナストリップラインを用いた測定系構築に引き続き,量子井戸面と垂直な方向の直流およびTHz電界を印加可能なマイクロストリップライン構造を検討した.この構造でパルス光励起による信号を発生・検出するため,インラインにギャップを設けた素子を作製した.実際にTHz電気信号発生の研究を進め,立ち上がり時間400fs程度の信号を量子井戸構造の電界吸収効果によって観測することに成功した.一方で,ラインにギャップを設けずに信号を検出するための新たな手法として透明導電膜であるITO薄膜を用いるマイクロストリップライン素子作製のための研究を行った.実際に素子を用いて,THz電気信号の観測を行い,特性的には不満足ながら量子井戸と垂直な電界信号を捕らえることに成功した.また,この研究の過程において,単線のストリップライン構造でも,表面波を利用してある程度の距離であればTHz電気信号を伝搬させ得ることを見いだした.単線導波路は素子作製が容易である等の利点があり,今後他の用途にも応用できる可能性がある.さらに,直流電界が印加された状態での共振器ポラリトンモード振動に関する研究を行い,モード振動の位相が量子井戸中の直流電界によって変化すること,この現象が光非線形の起源として重要な励起子-励起子相互作用の変化を意味していることを初めて発見した.従来,励起子-励起子相互作用はいわば作りつけの性質であると認識されており,これを電圧という簡便な外部パラメータで変化させえるという可能性は理論的にも実験的にも考慮されていなかった.
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