研究概要 |
超長寿命域における疲労破壊機構を解明するため,まず基礎的な研究として一方向性3%ケイ素鋼板を用いて,一定振幅荷重下における疲労き裂進展試験を行った.また,き裂先端近傍様相を高分解能計測装置である原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し,特に低進展速度域における疲労き裂進展機構について検討した.一方向性3%ケイ素鋼板は,圧延方向と荷重軸方向を適当に選択することで,き裂進展方向に対して上下±55゜方向の2つのすべり系のみが作動する状態での,ほぼ単結晶材中におけるき裂進展挙動を観察することが可能である.実験観察の結果,疲労き裂先端で生じるすべり変形は,必ずしも連続的でなく離散的であることが判明した.また低進展速度域では,き裂は荷重軸直角方向に対してある角度を有して混合モード下で進展し,その際に分岐や屈曲を頻繁に伴うことが分かった.これは低進展速度域ではき裂進展駆動力が小さいために,上下2つの優先すべり系が均等に作動することはなく,どちらか一方が偏って作動することでき裂は荷重軸直角方向に対してある角度を持って進展する.さらに,すべり変形が一方に集中することでひずみ硬化が生じてその方向へのすべり変形が生じにくくなり,もう一方のすべり変形が相対的に大きくなることでき裂が屈曲することが明らかになった.また分岐挙動に関しても,同様にひずみ硬化が原因で生じることが判明している.このような低進展速度域における疲労き裂進展機構の解明は,超長寿命域における疲労破壊機構に重要な知見を与えるものである.
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