研究概要 |
本年度は研究の最終年度であり,まずGaAs-MMIC用スパイラルインダクタについては,昨年度の結果に基づいて,シミュレータを駆使して最適設計を行い、単位面積あたりのインダクタンスを現用のスパイラルインダクタの2倍に、Q値をQ【greater than or equal】15にできることを示した。とくに磁性膜のシールド効果について詳細に検討し,透磁率,膜厚,抵抗率などを総合的に最適化する方策を明らかにした. Si-MMIC用外部コイル形磁性薄膜インダクタについては,スパイラルインダクタのマイクロ加工上必要なSiO_2の表面平坦化ならびに,SiO_2層端部の傾斜化が可能となり,これらを盛り込んだ構造設計とプロセス設計を行った.同時に電磁界シミュレーションによる最適設計も行った.2003年1月〜2月に深刻な装置故障があり,試作完了が3月にずれ込んだため本報告書の時点では最終的な性能確認結果を記すことができないが,最終報告書では詳細に報告する. 集積回路との適合性については,以上2種類のインダクタのプロセス温度、コンタミ、集積回路内での電磁干渉を検討し、実際に集積回路用モノリシックインダクタとして使用する場合の問題点の抽出と,基本的対策を明らかにした。とくに電磁干渉の解析ツールとして,開口部が高さ6μm×幅50〜500μmの薄膜シールディドループプローブを新たに開発し,1GHzで空間分解能40μmのという世界最高性能を実現させた.これを用いて高周波磁界分布をインダクタ上で実際に計測した結果,磁性膜によるシールド効果は顕著であり,磁束量が空心集積化インダクタより高いにも関わらず,漏洩磁界は高々空心インダクタ程度に留まり,実用上の障害にはならないことがわかった. 更に,RF帯における磁性膜の新しい応用として,集積回路上の伝送線路に磁性膜を集積化し,その高周波損失を利用することにより,集積化高周波電磁雑音抑制素子が実現可能であることを見出した.長さ15mmの薄膜コプレーナ線路に1.8mmのCoFeA10膜を配置すると,1GHzにおける挿入損失は0.4dB以下と小さく,20GHzでは15dB以上に及ぶ.これは本研究当初には予想しなかった新しい成果である. 以上のように本研究ではGHz帯における磁性薄膜インダクタの実用可能性を実験的に強く示すとともに,この帯域における磁性薄膜の新しい応用を提案することもでき,ほぼ所期の目標を達成できた.
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