溶射技術のコーティング分野における位置付けは主としてその経済性によるところが大きく、応用研究の数に比して基礎研究例が極めて少ないのが特徴でもある。そこで本研究では、単一溶射粒子の急速変形・大過冷急速凝固過程に焦点を絞り、その場計測、及び数値解析の両面からその解明を目指すことを目的としている。本年度の成果として下記が挙げられる。 数値解析:SOLA-VOF法に大過冷凝固を組み込んだプログラムを開発し、系統的な数値解析を行った。結果として、過冷度と粒子偏平度間の関連を導出することが可能となった。また、実験との対応を検討するため、界面熱抵抗に関して一連の計算を行い、パラメータとしての界面熱抵抗を明確にする特殊な実験が必要との結論を得、ミクロンレベルで加工した石英基板上での変形・凝固過程の実験に着手し、最終年度に向けた数値解析方向の指針を得た。 計測実験:初年度の予備的実験を踏まえ新たな計測システムを設計試作した。スリット幅600μmのコリメーターを基板上方8mmの位置に設置し、溶射粒子がスリットを通過する時の放射光パルスから粒子速度を導出した。表面温度変化の測定には、焦点距離40mmと70mmのレンズを用いて粒子の衝突地点に焦点を合わせて放射光を光ファイバーから取り込み、ビームスプリッタにより反射光及び透過光に分離し、ナローバンドフィルター(半値幅10nm)を用いて、それぞれ700nmと1000nmの信号を検出、光電子倍増管により電気信号に変換・増幅した。溶射粉末として8mol%YSZ溶融破砕粉末及び中空粉末の2種類を用い大気圧下で溶射し、基板に衝突する溶射粒子を個別に認識するため、500μm径のオリフィスをコリメーターの直上に設置し、基板を水平方向に約1mm/sの速さで移動しすることにより、溶射粒子を基板上に一列に堆積させ、その場計測結果と1 : 1対応を可能とした。例えば、3500Kの粒径37μmのYSZ粒子が300℃の基板に63m/sで衝突する場合、扁平度は3.1となり、変形及び凝固に要する時間は各々約24μs、及び280μsと見積もられた。
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