本研究の主たる目的は、溶射粒子変形素過程を、その場計測とシミュレーションの双方、かつその補完により解明することである。初年度は主としてシミュレーションコードを開発し、昨年度はその場計測システムを設計・試作した。 最終年度の本年度は補完に必要とされるより高精度な計測を可能とするため、特に迷光低減化によるS/N比の向上を追求するとともに、連続計測を可能とするプログラムの精緻化、効果的粒子サンプリングを可能とするオリフィス径の最適化、板衝突直前飛行粒子の温度計測等により、粒子の過熱/過冷状態と変形凝固形態との相関を詳細に検討した。 成果として、一般に緻密な溶射皮膜が作製されると考えられる扁平率3程度のジルコニア(YSZ)スプラット群中に500℃程度過冷した状態で衝突した粒子を計測するとともに、より小さな扁平率で且つ粒子表面に過冷凝固特有の凝固組織を呈するスプラットの存在も確認した。これらにより、現在まで等閑にされてきた溶射プロセスにおける過冷粒子の存在を明示し得た。アルミナを仮定した場合の過冷凝固シミュレーションでは400℃の過冷状態で衝突した粒子の扁平度は2程度になる結果を得ており、ジルコニアにおいて計測された低扁平度スプラットは数百℃以上の大過冷状態にて衝突した可能性があると考えられる。また、基材表面のミクロな形状と変形挙動との相関に関する系統的実験も平行して実施し、変形に及ぼす表面臨界荒さの存在を確認した。更に、附随する成果として、ジルコニアの融点付近での粘性を0.025-0.050Pa・s程度と見積ることができた。 今後、基材表面ミクロ形態、その場計測、およびスプラット形態との系統的1対1対応、およびシミュレーションとの比較による溶射粒子変形に関する理解の一層の深化が望まれる
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