研究概要 |
1.オクテンと5当量のブロモ酢酸エチルの水懸濁液にラジカル開始剤として0.5当量のトリエチルボランを作用させる。系中に10mLの空気を30分おきに導入しながら室温で1.5時間攪拌する。濃縮の後、カラム精製を行うと対応する付加体が74%の収率で得られた。この反応はベンゼンや塩化メチレンなどの極性の低い有機溶媒中ではほとんど進行しない。メタノールやエタノールのようなプロトン性溶媒中では中程度の収率で付加体が得られた。またDMSO、DMFなどの非プロトン性極性溶媒や2,2,2-トリフルオロエタノールを用いたところ水を溶媒としたときと同様に収率よく付加体が生成した。この反応の溶媒効果についてab initio法による理論計算を用いて検討し、水分子と基質の水素結合が重要であることを明らかにした。 2.パラジウム触媒を用いるアルキンやジエンのヒドロゲルミル化反応において、添加剤を一切加えずに水中での不均一系で反応を行うと反応が著しく加速されることを見いだした。しかも、反応は無溶媒系での反応よりも速い。さらに、水中で反応を行うことにより、パラジウム触媒を有機溶媒中の反応と比較して1000分の1以下にまで減らすことが可能である。この量の触媒では有機溶媒中や無溶媒条件下では反応は全く進行しない。面白いことに、均一化のため界面活性剤を添加したり、パラジウムの配位子として水溶性の配位子を用いたりすると、反応系は乳化して均一となるものの、反応速度は却って低下する。水中の不均一な反応場で反応を行ったほうが均一化するよりもずっと良い場合があることがことが明かとなった。
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