高分子結晶化における最大の難問は、巨大分子に固有なトポロジー的本性がいかに核生成を規定しているかを解明することである。本研究では、トポロジー的本性のもっとも重要な現れである「高分子鎖の絡み合いと滑り拡散」の核生成における役割を定量的に明らかにすることに初めて成功した。絡み合いの多い試料と少ない試料を調整できる方法を独自に開発し、絡み合いが多くなるとともに核生成速度が百倍ほど抑制されることを明らかにした。また、絡み合いが少ない試料を融液状態に保持すると、絡み合いが時間とともに増大することを明らかにし、いわゆる「結晶化が融液を作成する履歴によって影響を受ける」という「メルトメモリー効果」の仕組みが、絡み合いの数密度の変化によるためであることを初めて明らかにできた。 高分子の成型加工においては、高分子融液中の高分子鎖は「ずり変形や伸張」によってが著しい変形をうけ、結晶化の様子が著しく影響を受ける。こうした変形の結晶化に及ぼすメカニズムは全く解明されていない。本研究では、流動場という「ずり変形や伸張」を発生できる場における核生成を定量的に観察することにより、流動場で決定的に核生成を加速する原因は「高分子鎖が伸張によって液晶的構造をとった"配向融液"になるため」であることを初めて明らかにした。 高分子結晶が示す多様な高次構造の起源は明らかではない。本研究では原子間力顕微鏡を観察によって、核生成から巨視的結晶へと構造発展の過程で、巨大なひもという高分子鎖固有な本性に由来する歪みエネルギーの集積が生じ、それが高次構造形成の引き金になっていることを明らかにした。このモデルは、典型的な高次構造である「球晶」の起源として重要であることを示した。
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