本研究は、遺伝的ゲノム再編成システムを利用して、ライムギ及びオオムギから病虫害抵抗性遺伝子を含む小さな染色体領域のみをパンコムギに導入することを目的とする。本年度の研究実施の具体的内容は以下の通りである。 1.ライムギの1R染色体付随体とパンコムギ染色体間の転座の選抜 これまでに配偶子致死染色体3Cにより誘発した約100の1R染色体構造異常から附随体の一部がパンコムギ染色体に転座している5染色体をGISH法により選抜した。これらの染色体を有する系統についてPCR、SDS・PAGE、を行いライムギ種子貯蔵タンパク質セカリンの遺伝子座の存在の有無の調査、さらに、サビ病に対する抵抗性の検定を行った。その結果、サビ病抵抗性遺伝子を有するが、セカリンの遺伝子座を失っている2系統を得た。これらは育種素材として有望であるので、各種のパンコムギ品種への導入を開始した。 2.ライムギ6R染色体の構造異常誘発系統の育成 6R染色体の長腕とパンコムギの6B染色体の短腕が転座した染色体(6BS.6RL)を持つパンコムギ系統に配偶子致死染色体を導入した基本系統を育成した。接種実験の結果、本研究で用いた6R染色体にはウドンコ病に対して抵抗性がないことが判明したが、その他にもヘッセバエ抵抗性などの有望な遺伝子を有するので、6R染色体の構造異常の選抜を継続することにした。 3.オオムギ2H染色体の構造異常誘発系統の育成 2H染色体のパンコムギ添加系統に配偶子致死染色体を導入した基本系統を育成し、その子孫から2H染色体の構造異常のFISH及びGISHによる選抜を開始し、約20の2H構造異常染色体を選抜することができた。また、これらの系統を用いたホーダチンの検定準備を行っている。
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