魚介類の風味とその発現機構を明らかにする目的で、本年度はブリSeriola quinqueradiata(ハマチ)筋肉の熱水抽出液中に含まれるエキス成分を分析し、その結果に基づいて再構成エキス(合成エキス)を調製し、タンパク質や脂質の風味への関与などについて検討した。下記の成果を得た。 きわめて新鮮なハマチの普通肉から熱水によって抽出したエキスを調製し、各種の化学分析法を駆使してエキス成分を分析し、エキス窒素のほぼ全量(95%)の帰属を解明した。熱水抽出エキス中に含まれるタンパク質はアミノ酸分析、電気泳動などによって組成を検討したところ、その大部分(約80%)がゼラチンであることがわかった。上記の合成エキスの味質は、熱水によって抽出したエキスのそれと幾分類似してはいるものの、かなり隔たりがあることが明らかとなった。そこで、この合成エキスに、ブリ筋肉から精製したコラーゲン(I型)を加熱して調製したゼラチンを添加することによって味質の変化を検討したところ、熱水によって抽出したエキスのそれに類似することがわかった。さらに本研究ではエキス中に含まれる脂質の役割を解明するため、ハマチおよびベニザケ腹部筋肉の脱脂を目的としてn-ヘキサンで処理して脱脂エキスを調製し無処理のものと味質を比較したところ、「まったり感」、「なめらかさ」、「魚臭」等の強度が有意に低下するだけでなく酸味が強まることもわかった。ついで、この脱脂エキスにDHAエチルエステルを添加したところ、「まったり感」や「なめらかさ」が回復し、酸味も弱まった。また、ハマチでは合成エキスにDHAエチルエステルを添加したところ、これらの味質以外にも、表現することが難しい複雑な感覚が付与されることが明らかになった
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