研究概要 |
小腸移植の症例数は近年次第に増加しつつあるが,拒絶反応や虚血再潅流障害の制御がいまだ不十分のため術後成績はかならずしも満足出来るものではない.われわれは,グラフトへのステロイドを中心とした局所免疫療法を用いて拒絶反応を抑制し,また炎症性サイトカイン産生のkey enzymeであるJNK、p38のインヒビターを用いて虚血再潅流障害を制御することを試みた. 1.肝移植症例における局所免疫抑制効果 局所免疫抑制法のバックグラウンドとして,グラフト門脈に挿入したカテーテルからグラフト肝に直接ステロイドを注入するプロトコールを組み,その効果を検討した.この方法により,拒絶反応の発生率を上げることなく併用免疫抑制剤であるタクロリムスの血中濃度を数十パーセント下げることが可能であり,タクロリムスの重大な副作用である腎障害を防ぐことが可能であった.また,激しい拒絶反応を惹起するため禁忌とさえ言われているABO血液型不適合肝移植の成人例において,拒絶反応を未然に防ぐことが可能となった. 2.小腸虚血再潅流モデルにおける炎症性サイトカインとMAP kinaseの動態の検討 ラット小腸虚血再潅流モデルにおいて小腸組織中の炎症性サイトカイン(IL-1,TNF)とMAP kinase(JNK,P38)の産生を検討した.炎症性サイトカインもMAP kinaseも再潅流とともに著明な増加を認めた.また,再潅流障害後の小腸組織を病理学的に検討すると粘膜絨毛上皮の脱落をHE所見で認め,同部にTunnel染色にて著名なアポトーシス細胞を認めた.MAP kinaseは炎症性サイトカイン産生のkeyenzymeであるとともに細胞にアポトーシスに誘導する因子として指摘されており,虚血再潅流障害を抑制するためにJNK,P38を制御する正当性が示唆された.3.MAPK(JNK、p38)inhibitorの効果の検討 予備実験として虚血再潅流障害の程度をより簡便に評価できるラット肝虚血再潅流モデルを用い,JNK.p38のインヒビターLL-Zl640-2非投与群と投与群でその効果を比較したところ,再潅流後180分において非投与群の血清GOT,GPTは約6000〜7000IU/Lまで上昇したのに対して投与群では約20〜30%の改善する傾向が認められた
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