研究概要 |
小腸は極めて虚血に弱く,臓器保存が必要な移植医療の場では大きな問題となっており,小腸虚血再灌流障害の病態の解明とその制御法の開発は臨床的に重要な課題である.我々はラット小腸虚血再灌流障害において,IL-1・TNFなどの炎症性サイトカインが過剰発現しており,これらサイトカインを抑制するFR167653の投与によって小腸組織障害が著明に減少することを示した.この事実は,IL-1、TNFが小腸虚血再灌流障害において中心的役割を果たしていることを示唆するものである.この炎症性サイトカイン産生に至るシグナル伝達系の上流に存在し、最近その存在がクローズアップされてきているのがmitogen activated protein kinase (MAPK) superfamilyである.MAPKとは外界刺激に応答して核へのシグナル伝達を行う細胞内リン酸化酵素群であるが,中でもJNKやp38はストレスを受けた細胞をアポトーシスに陥らせたり,炎症性サイトカインを産生する過程でのkey enzymeとして作用するなど,虚血再潅流障害に深く関与する可能性がある.われわれは,ラット小腸虚血再潅流障害の過程において,障害小腸組織中のJNKとp38が著明に活性化され,またこれらが特に障害の強い小腸粘膜微絨毛先端部に集中して発現し,同部でアポトーシスに陥った粘膜上皮細胞が多数出現することを示した.また,JNKとp38を同時に阻害するLL-Z1640-2の投与は,有意に小腸組織中のJNKとp38の活性化を阻害し,さらに病理学的に小腸粘膜障害と同部におけるアポトーシス細胞の発現を抑制した.以上より小腸虚血再灌流障害では,IL-1・TNFなどの炎症性サイトカイン,さらにはその上流に位置するシグナル伝達系としてのJNKやp38などの細胞内リン酸化酵素が重要な役割を果たし,これらの抑制が虚血再灌流障害の軽減に有効であることが明らかにされた.
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