研究概要 |
ベーチェット病,Vogt-小柳-原田病をはじめとした難治性炎症性眼免疫病は,その分子遺伝学的発症機序にHLAが深く関与していることが示唆されている.したがって.HLA遺伝子領域の詳細な解析を行うため,HLAクラスI領域の全塩基配列,1.9Mb(1.9X106bp)を正確に決定した.さらに既存のDNAデータバンクとのホモロジー解析およびGrail, Hexon解析の結果,23個の発現既知遺伝子,12個の発現新遺伝子,22個のESTと一致する領域,67個の偽遺伝子および3個の発現可能な塩基配列の計127個の遺伝子あるいは遺伝子候補領域を見出した.また,この領域に存在するマイクロサテライト(反復配列)を検索した結果,2〜5塩基の反復配列からなる計758個のマイクロサテライトを見出した.また,HLAクラス領域に存在する10数種類のマイクロサテライトを用いて本疾患の原因遺伝子のマッピングを日本人,ギリシャ人,イラン人,イタリア人,サウジアラビア人,トルコ人および中国人について行った.その結果,いずれの民族においても本病の原因遺伝子はMICA〜HLA-B遺伝子間の46kbに絞り込むことが出来た.またベーチェット病の病因遺伝子はHLA-B遺伝子近傍,特にHLA-B遺伝子のハプロタイプの一つであるHLA-B51と高い相関を示すことを報告した. 次に,ベーチェット病患者のHLA-B51遺伝子領域とそのプロモーター領域の塩基配列を決定し,健常者の塩基配列との比較解析を行った結果,HLA-B遺伝子のイントロン領域,プロモーター領域にはいくつかのSNP多型がみられたがベーチェット病特異的な多型はみられなかった.このことから,HLA-B51アリルを特徴づけるSNP多型そのものが,本症発症に関与していると思われた.したがって,ベーチェット病はHLA-B51抗原が病因発症に第二義的に働き,それと関係したその他の遺伝・環境要因がからみ合って症状を発症するものと思われる.また,トルコ人のベーチェット病患者におけるMICAアリル解析を行い,疾患感受性について検討した結果,MICA*009アリル頻度が患者群で有意に上昇していた(R. R. =7.1 P=0.000046)ことがわかった. 以上のことから,ベーチェット病では人種をこえてHLA-B51と第一義的に相関を有し,さらにその他の遺伝子素因として,HLA-B51抗原に連鎖しているMICA*009アリルの有意な増加があり,MIC-A*009-HLA-B*51ミニハプロタイプが本病発症に重要な役割を担っていることが示唆された. 現在,他の難治性眼免疫病についても詳細な検討が進行中である.
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