研究概要 |
本年度は,本研究の最初の年度であるため,実環境における音声対話について基礎的な調査を行った.具体的には(1)「車内音声対話コーパス」,(2)「話し言葉同時通訳コーパス」を構築し,それぞれの分析を行い,様々な知見を得た.以下に詳細について述べる. 〇車内音声対話におけるユーザインタフェースの調査: 実環境における音声対話の評価を行うために,実走行車内において収録された音声対話から書き起しコーパスを構築し,その詳細な分析を行った.実走行車内における音声対話の分析によって,実環境でのユーザインタフェース実現における問題点が明確になることが期待できる。この収録では,車両のスピードや位置,アクセルやブレーキの踏力を同時に記録しているため,対話と同時にユーザの振る舞いの分析も可能である.これまでの分析の結果,走行中のユーザは停車中に比べ,ひとつの発話が短くなる傾向があり,また「はい」などの単純な応答が多くなるという知見が得られている.これによって,人にやさしいユーザインタフェース構築のためのひとつの基準が獲得できたと考えている.さらに,多数の対話の制御の傾向を統計的に分析することによって対話管理を確率的に行う手法を検討している. 〇話し言葉同時通訳における発話同時理解手法の調査: なめらかな対話を実現するためには,自然言語を発話と同時に解釈する必要がある.発話同時理解の実環境データとしては,同時通訳が利用できる.本研究では講演音声や旅行対話に対する日英・英日の同時通訳を収録した.同時通訳者は,自然言語を漸進的に解釈し,原言語にできるかぎり近いタイミングで通訳を行う努力をしている.この手法を分析することによって,よりなめらかなユーザインタフェース構築のための知見が得られることが期待される.音声の書き起しでは文字とともに時間情報を記録して,同時通訳を時間的な側面から分析可能とした.これまでの分析により,同時通訳者が通訳を行う際に様々ないいまわしを活用することによって,原言語と目的言語での語順の違いを吸収し,翻訳の同時性を高めていることがわかった.
|