脊索は脊索動物を特徴づける最も本質的な形質であるばかりではなく、脊索動物の発生において神経の誘導など中軸器官として重要な役割を担う。本研究の目的はホヤ胚における脊索形成の遺伝子カスケードの全貌を明らかにすることである。ホヤの発生にともなってオタマジャクシ型幼生の尾部に正確に40個の脊索細胞が分化し、その細胞系譜は完全に記載されている。我々はすでにBrachyury遺伝子がホヤの脊索形成に重要な役割を担うこと、また、Brachyuryの下流標的遺伝子として脊索形成に関わる20以上の脊索特異的構造遺伝子を明らかにしてきた。本年度はBrachyuryの発現に至る内胚葉細胞からの誘導シグナルに関わる遺伝子カスケードを中心に研究した。 最近になって我々は、ホヤ胚においては、母性因子として準備されたβ-カテニンの核移行が内胚葉分化と密接に関係していることを明らかした。すなわち、β-カテニンを過剰発現させると動物半球側の予定表皮細胞が内胚葉に分化し、逆にカドヘリンの過剰発現によってβ-カテニン量を減少させると予定内胚葉細胞が表皮細胞に変わる。そこで、β-カテニン過剰発現胚とカドヘリン過剰発現胚で発現するmRNAをサブトラクションすることによって、β-カテニンの標的遺伝子を単離し、その中から内胚葉脊索の誘導に関わる遺伝子の同定を試みた。その結果、内胚葉の分化に関わるLIM homeodomain遺伝子の他に、FoxD遺伝子が得られた。このホヤFoxD遺伝子は16細胞期および32細胞期の内胚葉細胞でのみ発現する。しかしこの遺伝子の機能阻害実験は、この遺伝子は内胚葉の分化そのものには関わらず、脊索の誘導に必須であることを示した。したがって、今後この遺伝子の下流標的遺伝子を単離することによって、Brachyuryの発現に関与するシグナル分子が同定される可能性がある。
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