研究概要 |
本研究の目的はホヤ胚における脊索形成の遺伝子カスケードの全貌を明らかにすることである。1990年にクローニングされたマウス突然変異Brachyuryの原因遺伝子はT-ドメインとよばれる新奇のDNA結合ドメインを含む転写因子をコードする。ホヤのオタマジャクシ幼生の発生にともなって尾の中央に40個の細胞からなる脊索が形成されるが、ホヤBrachyury (Ci-Bra)遺伝子は予定脊索細胞でのみ発現し、脊索形成のマスター遺伝子として働く。本研究ではまず、(1)[Ci-Bra上流遺伝子カスケード]を明らかにした。脊椎動物胚と同様にホヤ胚における脊索も内胚葉からの誘導によって形成される。ホヤの内胚葉の分化にβ-カテニンが重要な働きをする。そこで、β-カテニンの下流で脊索形成に関与する遺伝子のcDNAを単離したところ、FoxD,ZicLなどの転写因子をコードする遺伝子が単離された。FoxDは予定内胚葉で発現するにも関わらず内胚葉の分化には関与せず、脊索形成にのみ働く。ZicLはFoxDの下流で働き、この遺伝子の機能を阻害するとCi-Braの発現が抑制される。したがって、β-カテニン-FoxD-ZicL-Ci-BraというCi-Bra上流遺伝子カスケードが明らかになった。次に、(2)[Ci-Bra下流遺伝子カスケード]を明らかにした。Ci-Braの下流で働く遺伝子のcDNAクローンの単離を試み、Ci-Braによって活性化する約40個の脊索特異的遺伝子のcDNAクローンの単離に成功した。その中には、prickle,ERM,cdc45などの遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子の機能を阻害すると、脊索形成のためのいわゆる形態形成運動が阻害された。したがって、Ci-Bra下流遺伝子の多くは脊索形成運動で働くと思われる。このように、本研究によって、ホヤ脊索形成の遺伝子カスケードの全貌がほぼ明らかになった。
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