研究課題
基盤研究(A)
心疾患は日本人の死亡原因の上位を占める疾患であるが、その終末像であう内科的治療抵抗性の重症心不全に対しては心移植や補助人工心臓による機械的補助循環が適応となる。心移植の大幅な増加が見込めない現状から近年は補助人工心臓の適応が拡大される傾向にあるが、長期間の使用に耐えうる生理的な人工心臓の制御方法は未だ確立されていない。従来の心拍出量などによるフィードバック制御では生体からの応答を適切に循環制御系に反映させることができず、長期使用に伴い静脈圧の亢進などを生じて循環動態の維持が困難になる現象が報告されている。この問題を解決するため、本研究では生体信号の記録に適しているステンレススチールにノイズ対策を施した神経電極を本学工学研究科と共同で開発して人工心臓動物における自律神経活動電位の記録を行い、中枢神経支配による循環動態制御の観察を1ヶ月以上の長期にわたって実現した。覚醒下での長期間の自律神経電位の記録は世界的にも例がなく、この実験結果から得られた自律神経活動電位の情報を利用することで生体親和性の高い制御アルゴリズムの構築を試みた。その手段として、複雑な生体情報を支配する高次中枢の影響評価に用いられる非線形解析理論のひとつであるフラクタル次元解析を用いて、自律神経活動電位の定量的な評価を試みた。従来の報告から自律神経系は中・長期における循環動態の制御に重要な役割を果たしていることが明らかであり、本研究の動物実験でも姿勢の変化や循環動態の変化に対応して自律神経活動のトーヌスおよびフラクタル次元の遷移が観察された。これらの成果をもとに、自律神経トーヌスと周波数情報の変化をフィードバックした、病態生理学的により理想的な循環動態の制御関数の構築および改良を試みている。現在は長期生存実験においてその有効性を確認している段階であり、今後の展開が期待される。
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