研究概要 |
植物は光エネルギーを利用して光合成を行っており,光エネルギーをどれだけ集めるかは植物の生産性に直接関係している。野外では植物は光環境や栄養条件に応答して光エネルギー捕捉装置の大きさを調節して最適な光合成を実現している。しかし,人間が作った栽培条件では,植物は必ずしも最高の生産性を示していない。集光装置を大きくすることは,光不足の栽培条件下では生産性の向上に必要であると思われる。集光装置の大きさを制御するのは,周辺集光装置を構成するクロロフィルbの合成活性と考えられてきた。我々が単離したCAOは二段階の酸素添加反応を触媒し,クロロフィルaをクロロフィルbに転換する酵素であり,クロロフィルb合成を単独で調節しており,この発現が集光装置の大きさを制御していることをこれまで明らかにした。そこで,シロイヌナズナの野生型,及びクロロフィルb欠損株に、35Sプロモーター制御のCAOを導入した。CAOを導入した株では,集光装置が約20%大きくなったことが示された。つぎに,CAOの発現が大きな株を単離し,野生株と成長との比較をしたところ,弱光下では野生株より有意に成長が早かった。これは,光合成機能そのものを改変し,生産性の向上に成功した最初の例である。さらに,CAOタンパク質そのものの改変を行ったところ,CAOが葉緑体内で安定に存在し,その結果非常に大きな集光装置を作成することに成功した。 これらの結果は,光合成のエネルギー転換系を改変し,生産性を高めることが基本的に可能であることをしめし,今後の農業的応用に道を拓いたと考える。
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