研究課題
我々は、日本人3家系を主な解析家系としたポジショナルクローニングにより、インスリン依存性糖尿病と進行性視神経萎縮をきたすWolfram(ウオルフラム)症候群の原因遺伝子を同定したが、この遺伝子WFS1の機能は全く不明である。そこで、まず、WFS1のC末端241アミノ酸部分をGST融合蛋白として作製し、家兎を免疫して特異的抗体を得た。ヒト繊維芽細胞を破砕・分画すると、抗体で認識される蛋白(WFS1蛋白)はミクロソーム分画に認められ、塩やアルカリでは溶出されず、Triton-Xなどの可溶化剤で溶出され、細胞内の膜蛋白であることが示された。また、PNGaseやEndo H処理で電気泳動度が変化し、アスパラギン残基に糖鎖がついていることも示された。iodixanolの濃度勾配を用いて詳細に分画すると、ERマーカーのcalnexinやBiPと同じ分画に認められ、Golgiマーカーや細胞膜マーカーとは異なった分画にあった。このようなERへの局在は免疫組織学的にも支持された。すなわち、免疫染色では細胞質に網状のパターンを示し、ERマーカーのconcanavalinAの染色と重複したのに対し、ミトコンドリアやGlogiマーカーの染色とは重ならなかった。ミトコンドリアに局在しないことは、Wolfram症候群がミトコンドリアに関連した疾患であるとの初期の考えを否定するものである。次に、ラット脳における発現を検討した。グリアではなく神経細胞に発現しており、海馬CA1領域、アミグダラ、olfactory tubercle,superficial layer of allocortexなど、辺縁系とそれに関わる部位での高い発現が特徴的であった。ERの膜蛋白であることは、ERでのカルシウム制御に関わっている可能性も考えられ、今後、WFS1の機能を解明する上で重要な知見と思われる。WFS1ノックアウトマウスの作製はキメラマウスが生まれており、順調に進んでいる。
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