ヒトゲノムプロジェクトによりヒトの全遺伝子の塩基配列が数年以内に解明されようとしている。さい細胞内の特定遺伝子の発現を細胞外から自申自在にコントロールすることが可能になれば、究極の遺伝子治療となると考えられる。これを実現させるため、我々は天然物のアルキル化部分にピロールイミダゾールポリアミドを結合させて、DNAの任意の塩基配列で反応する分子の合成に成功した。そこで、本研究ではコンビナトリアルケミストリーを用いて、DNA認識部位としてピロールーイミダゾールポリアミドを結合させ、制癌活性や細胞周期を調節する新しいタイプのアルキル化剤の化学合成を目的とした。今年度の研究により、配列特異的なインターストランドクロスリンカーの開発にも世界に先駆けて成功した。さらに高い塩基配列認識能と高い反応性を有するヘアピン型ピロール-イミダゾールの分子設計の改良にも成功した。またヒト培養がん細胞を用いたスクリーニングパネルによる検討により、天然物をはるかに超える非常に強い活性を示すものが数多く合成できることが示された。さらに興味深いことにアルキル化の配列特異性の違いにより、それぞれのヒト培養がん細胞に対する抗がん活性(スクリーニングパネル)に顕著な違いが見られ、低い相関係数を与えた。これらの結果は分子構造が似ていても、アルキル化の塩基配列特異性が抗がん活性に相関している可能性があることを示す結果であり、テーラーメード抗がん剤の設計という点で、興味深い結果である。また固相合成した長鎖ポリアミドについて細胞膜や核膜の透過性も確認されたので、今後は特定の遺伝子を標的とする遺伝子発現制御分子の合成が可能になった。配列レベルでの分子標的をコンビナトリアル的に探索するためには、今後は特定のがん細胞に選択毒性を示すものを効率よく選び出すスクリーニング法を開発する必要がある。
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