ホヤ発生遺伝学の展開をはかることを目的とする。ホヤにおいてもこれまでに多くの発生遺伝子が単離され、その発現パターンが調べられている。しかし一般的にいってこれらの発生遺伝子の機能を解析することは技術的に困難である。そこで既知および未知のホヤ発生遺伝子の機能を理解するために、ホヤへの発生遺伝学的研究手法の導入をはかりたい。カタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)およびユウレイボヤ(Ciona savignyi)は世代時間が3カ月と短いこと、配偶子の採取が通年可能なこと、雌雄同体で自家受精が可能なことなど、発生遺伝学展開のための実験動物に適した利点を持つ。また我々はすでに室内飼育の方法を確立した。本研究では、(1)ENEやTMPなどの化学的突然変異源を用いて特に初期発生過程での形態形成に重要な役割を果たす機能遺伝子の単離と同定を試みる。さらに、(2)トランスポゾンベクターを改良して、ホヤでのトランスポゾンタギング法を確立する。本年度は特に(2)について進展が得られた。 これまで様々なトランスポゾンベクターをホヤ卵に導入し、その有効性を確かめてきたがなかなか有効なトランスポゾンを同定することができなかった。しかしようやく最近になってTc1/marinerスーパーファミリーの中でMinosがホヤ胚でトランスポゾン活性を持つことを確かめた。今のところ、カタユウレイボヤの方がユウレイボヤよりも高効率でトランスポゾンの導入ができることがわかっている。またGFPをマーカーとしてトランスポゾンを追跡したところ、世代を越えて受け継がれることが判明した。現在、これを利用して突然変異体の作製を進めているが、その過程で1つのエンハンサートラップ・ラインを得ることができた。この個体では、Musashi遺伝子の発現調節領域にMinosが挿入され、この遺伝子の発現が変化していた。
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