研究概要 |
本研究は,無傷の動物から脳の個々のニューロン活動を光学計測する非侵襲計測システムを構築することを目的とした.本年度は,製作した共焦点レーザー高速スキャンシステムを用いて,実際にゼブラフィッシュの脳ニューロンの活動を計測するのに加えて,新たに動物の運動と脳ニューロン活動を同時計測する光学システムに発展させた.100×100画素のイメージを100ミリ秒ごとに取り込む平面スキャンと1走査線を2ミリ秒ごとに取り込むラインスキャンを主に用いて,ゼブラフィッシュの後脳に存在するマウスナー細胞やその相同ニューロンである網様体脊髄路ニューロンの活動を同時記録することに成功した.ゼブラフィッシュの稚魚は体が透明であるので,カルシウム蛍光指示薬(Calcium Green-1 Dextran)でラベルしたニューロンの活動を体の外から光学計測できた.活動電位に伴う蛍光強度の変化は大きく(約60%),加算処理をせずに単一のニューロン活動を記録できた.マウスナー細胞では抑制性シナプス応答が活動電位応答を減弱させることを利用して,抑制応答を光学計測した.この成果は,動物の脳から抑制性シナプス応答を非侵襲計測した初めての例で,Journal of Neuroscience 22: 3929-3938, 2002に発表した.また,運動中のゼブラフィッシュからニューロン活動の光学計測と運動の高速解析を同時に行うために,共焦点レーザー顕微鏡と光学顕微鏡を上下に組み合わせた計測システムを新たに製作した.2つの顕微鏡間で光の干渉が起こらないように工夫し,さらに高感度高速ビデオカメラ(2ms/frame)を光学顕微鏡に装着して,瞬時に起こるゼブラフィッシュの逃避運動を記録した.新しく開発した同時計測システムを用いれば,運動中の動物の脳から複数のニューロンの活動が計測され,脳の並列処理の実態を解析できる.
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