昨年度の課題として残っていた感度向上のため、ガスクロマトグラフの注入口の改良を行った。その結果、約15ナノグラム程度の水素を持った有機分子の水素同位体比測定が可能となった。当初目標としていた感度での分析が可能となり、様々な試料中に含まれる有機化合物の分子レベル水素同位体比測定を行った。しかし、化合物の違い(例えば、アルカンと脂肪酸など)で熱分解効率に差が出て、水素同位体比測定にも誤差が生ずることが明らかになった。同位体的内部標準を選択することにより、この問題を解決しようとしている。また、当初予定していたより熱分解炉の消耗が激しく、質量分析計の維持に予定外の支出があった(費目別収支決算表、その他)。 地球環境試料としては陸上高等植物ワックスや湖堆積物、河川-外洋にいたる堆積物中のn-アルカン、脂肪酸、アルコールなどの水素同位体組成を測定し、起源推定や運搬課程について有用な情報が得られた。また、炭素質隕石中に含まれる多環芳香族炭化水素の水素同位体比も予備的に測定した。今後、さらに様々な試料に測定を応用するとともに自然環境下における有機化合物の水素同位体分別メカニズムも解明する必要がある。
|