超微量有機分子レベル水素同位体比測定法の開発と地球環境科学への応用

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12359003
• 研究機関: 東京都立大学
• 研究代表者: 奈良岡 浩 東京都立大学, 理学研究科, 助教授 (20198386)
• キーワード: 水素同位体比 / 有機分子レベル / 堆積物 / 隕石 / アルカン / 脂肪酸 / アルコール / 多環芳香族炭化水素

研究概要

本研究の目的は数十〜数百ナノグラム(10^<-9>g)程度の有機分子レベル安定水素同位体比の測定方法を開発し、地球環境科学における様々な試料に含まれる超微量バイオマーカーに適用し、有機化合物の地球化学サイクルや古環境解析研究に応用することである。昨年度までで同位体比測定における同位体比補正法や感度・精度などの問題点がほぼ解決し、約15ナノグラム程度の水素を持った有機分子の水素同位体比測定が恒常的に行えるようになった。
本年度は地球環境試料として陸上高等植物、湖堆積物、河川-外洋にいたる堆積物中などのn-アルカン、脂肪酸、アルコール、ステロールや、地球外試料である隕石中の多環芳香族炭化水素の水素同位体比を精力的に測定した。その結果、同じ植物が作り出す脂肪分子でも数百パーミルの幅があること、従来炭素同位体比のみからC3植物とC4植物の混合で説明されてきた堆積物中の有機分子についてそれら以外の寄与もあること、海洋堆積物中へのバクテリア活動の寄与、氷期から間氷期にかけて長鎖n-アルカンの水素同位体比が30〜40パーミル重くなることなど様々な新しい知見を得た。これらの結果を第12回国際地球化学会議(ゴールドシュミット会議)および日本地球化学会などで発表するとともに国際学術誌に論文を数編投稿・印刷中である。また、多環芳香族炭化水素(PAH)中を熱水中で加熱することによって水素同位体交換が起こることが明らかとなり、またその同位体交換が同じPAHの異性体であるピレンとフルオランテンでは異なることが発見した。さらに酢酸などの低分子有機酸の水素同位体比測定も行い、隕石中の低分子有機酸の水素同位体比測定も検討中である。

研究成果

• [文献書誌] H.Naraoka, H.Mita: "δD of individual PAHs from the Murchison and an Antarctic carbonaceous chondrite"Geochim. Cosmochim. Acta, Spec. Suppl.. 66. A546 (2002)
• [文献書誌] S.R.Poulson, H.Naraoka: "Carbon isotope fractionation during permanganate oxidation of chlorinated ethylenes (cDCE, TCE, PCE)"Enriromental Science and Technology. 36. 3270-3274 (2002)
• [文献書誌] Y.Chikaraishi, H.Naraoka: "Compound-specific δD-δ^<13>C analyses of n-alkanes extracted from terrestrial and aquatic plants"Phytochemistry. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] Y.Chikaraishi, H.Naraoka: "Hydrogen and carbon isotope fraqtionation during lipid biosynthesis of terrestrial plants"Geochim. Cosmochim. Acta, Spec. Suppl.. 66. A139 (2002)
• [文献書誌] T.Okuda, H.Kumata: "Vertical distributions and δ^<13>C isotopic compositions of PAHs in Chidorigafuchi Moat sediment, Japan"Organic Geochemistry. 33. 843-848 (2002)
• [文献書誌] 奈良岡浩, 力石嘉人: "分子レベル安定水素同位体比測定と地球環境科学への応用"Radio isotopes. 51. 249-250 (2002)
• [文献書誌] 奈良岡浩(分担): "「地球化学講座」第8巻「地球化学実験法」A1章"培風館(印刷中). (2003)