1923年から1935年まで関西に在住し、宝塚少女歌劇の管弦楽団員たちとともに宝塚交響楽団を創設、定期演奏会活動を精力的に展開して、ブルックナーをはじめ数々のオーケストラ作品を紹介するほか、音楽教育においても重要な足跡を残したオーストリア人音楽家、ヨーゼフ・ラスカについての研究において、本年はとりわけ彼の音楽作品を実際の音にすることに力を注いだ。具体的には、平成10年度よりさまざまな形でコピー等を入手してきた、神戸女学院、オーストリア国立図書館、ウィーン市立州立音楽資料館、およびリンツ・ブルックナー音楽院所蔵の自筆譜・筆写譜・出版譜より、日本の文学、音楽、情景、風物等に関連の深い作品をとりあげ、専門の音楽家たちや、音楽学専攻で楽器の演奏力を有する大学院生等によって演奏してもらい、録音を作成し、作品研究のための資料整備をおこなった。それらのうち代表的な作品は、《万葉集歌曲》(ソプラノとピアノ)および《日本組曲》(管弦楽)である。さらに3月にはラスカが学生時代を過ごした王立ミュンヘン音楽院(現:国立ミュンヘン音楽大学)を訪ね、彼の伝記に関わる資料を入手するほか、ラスカの息子でウィーン在住のライティンガー=ラスカ氏を改めて訪問し、今後の研究の展開にむけて協議を行った。なおラスカがオーケストラの指揮者として採り上げた作品のうち、モーツァルトをはじめ、彼がどのような解釈を行ったのかを探究する仕事にも着手した。ラスカは日本で長期にわたって活躍したにもかかわらず、今までその業績についてあまり知られていなかったが、研究代表者の一連の仕事を通じて、新聞等ジャーナリズムや、音楽出版界、さらにレコード制作においても注目され始めてきている。彼の仕事の内容ならびに意義が広く知られていくことは、日本における洋楽文化、とりわけ初期のオーケストラ活動を捉え直す上でも重要な意味があるものと考えている。
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