本年度は、以下の各領域において前年に引き続き、進化的な視点から実証的な研究を行った。 1.殺人研究:日本各地の地方裁判所の判例をもとに平成期の殺人に関するデータベース化の整備を継続した。また1980年代の警察資料をもとに、殺人にかかわるリスクファクターとして収入、学歴、就職状況、婚姻状況、精神状態などを比較し、進化心理学による予測の検証を行ない、人間行動進化学研究会で発表した。 2.出生率・死亡率の性差:明治期の人口動態資料から、嫡出子、庶子、私生児ごとに出生・死亡率性差を分析した。その結果、庶子では男児、私生児では女児の出生率が高く、親による子の差別が行われていたことが示された。米国人間行動進化学会でその成果を発表した。 3.適応的な認知バイアス:前年に引き続き、内集団と外集団の差別に関する認知バイアスがあることを4枚カード問題を用いて検証し、国際学会で発表した。 4.進化的精神医学:海外の研究者と共同で、うつや不安には、無用なリスクから身を守る適応的な防御の側面があることを分子精神医学誌に発表した。 5.自閉症児の認知に関する実験的検討:自閉症児は共同注視において障害があるか、そのメカニズムを検討するために、視線方向への自動的注意に関する実験的検討を引き続き行った。 6.自閉傾向尺度に関する予備的研究:健常者を対象として、自閉傾向尺度(日本版)と図形埋め込み課題、クロニンジャーのTCI、いじめられやすさ、性差などの関係を予備的に調査し、専門雑誌に投稿した。 7.その他、類人猿における情動認知、新世界ザルの色覚の進化に関する行動実験を継続し、学会発表し、学術誌に投稿した。
|