研究概要 |
今年度は主として書き割り効果の検討を進めた。 1.書き割り効果と距離のスケーリングの関係を検討した.スケーリング効果とは,視差情報が奥行きに変換される際に,対象までの距離が計算に含まれ,計算される奥行き量は距離の2乗に比例するということであり.つまり,ステレオ写真では視差はほとんど変わらずに観察距離が数十分の1になるため,奥行きが数百分の1から数千分の1になる.この効果を検討するため,バーチャルリアリティー研究用の大型三次元プロジェクション装置に実画像を提示し,対象の視角サイズが一定のまま観察距離を変化する事態,輻輳のみが変化する事態について実験を行った.その結果,対象までの観察距離の情報によるスケーリングによって知覚される奥行き構造が実際に小さく見積もられることが明らかになった.現物大の刺激までを含めたこの現象の検討は世界で最初の試みである.また,観察距離一定のまま,輻輳角のみを変化させても,観察距離,輻輳角を共変させた場合と同様に奥行き構造が知覚されにくくなるという現象も確認された. 2.背景と奥行き対比の効果についても検討を進め,背景と対象との間に不連続なギャップを設けた条件では,背景のない条件に比べて奥行きがほとんど知覚されないという結果が得られた.また,ランダムドットステレオグラムを用い両眼立体視の対比効果を詳細に検討する実験も行った.その結果は,この効果が視差の処理メカニズムによる側抑制のはたらきによって生じていることを示唆している.
|