研究概要 |
本研究の目的は,非侵襲的に脳の機能を評価可能な事象関連脳電位(ERP)を指標として,発達障害児の認知機能を客観的に評価することである.ADHD児を対象とし,聴覚・視覚の認知特性を検討した. 1.言語音弁別:言語音/da/を反復呈示中,/ga/,/i/,および純音を混入し,純音を標的として検出することを求めた.ADHD児は言語音から純音の弁別に困難を示し,さらに,逸脱の大きな/i/に対してP300が出現しなかった(対照健常児はP300を示した)ことから,課題と関連しない処理に注意資源を配分しないことが示された. 2.視覚探索:色と方位の2種類のポップアウト刺激(周りから飛び出して見える)を低頻度で混入した系列中,どちらかのポップアウト刺激を検出する課題を行った.ADHD児はポップアウト刺激の検出に問題はないものの,それへのトップダウン的な注意資源の配分に困難を示した. 3.視覚選択:(1)2色×2意味カテゴリ(動物,モノ)の線画のうち,特定の色の動物を検出する課題を行った.対照児は意味,色の順に処理するが,ADHD児は2つの処理を順序だてて行えない可能性が示唆された. (2)より低次な処理である単純な形(○,□)×色の選択課題を遂行時のERPを検討した.この場合は,対照児,ADHD児ともに色,形の順に処理するが,ADHD児は処理に遅れを示し,それが,後続する過程への注意資源配分の減少を引き起こすことが示された. 4.視覚逸脱:2つの実験から,ADHD児は,課題に関連しない逸脱刺激には,注意を引き付けられやすいが,課題関連刺激での課題非関連逸脱には注意資源配分が少ないことが示された. ERPは,行動反応に違いがないときでも,認知過程の問題を明らかにすることが示され,発達障害の神経学的・生物学的メカニズムの解明,診断・評価,および療育・訓練法の開発に貢献できることが期待される.
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