平成13年度は約半年にわたって招聘教授としてフランスに招かれ、エクサン・プロヴァンス大学、パリ社会科学高等研究院、ソルボンヌ高等研究院、コレージュ・ド・フランスなどの高等研究機関において、ポスト・ローマ期の制度や行政機構、行政文書について一連の講義や講演を行い、また史料調査・研究ばかりでなくフランス、ドイツ、イタリア、イギリスの専門家たちと研究課題についての意見交換をする絶好の機会に恵まれた。具体的には、現在11世紀前半の写本の形で伝来している「部族別賦課簿(the Tribal Hidage)」と称される行政文書について、アングロ・サクソン期古書体学の第一人者サイモン・ケインズ教授(ケンブリッジ)と数日間にわたって意見交換をすることができた。私が知る限り、この史料を用いての研究は歴史地理学的なそれ以外には見当たらず、このテクストがいかなる制度的、社会的背景のもとに作製され、何を目的としたのかなどの根本的な問題は、全く手付かずに残されており、大いに研究の余地があることが確認された。 今年度の後半は、イサベル・ヴェラスケス・ソリアーノによって一昨年写真版と読解が刊行された、6、7世紀スペイン・西ゴート王国のスレート板(石版)文書の基礎的調査を行った。これはスペイン中部のサラマンカやアヴィラ地方で出土し、現在総数で153点知られている。内容は判決文、売買文書、土地交換文書、租税徴収文書などである。石版という独特な支持素材を用いており、この点で支配・統治のための文字記録の使用の新しい認識をもたらす可能性を秘めた史料であることは明らかで、それだけに今後の研究の進展は国際レベルで学界に新知見をもたらすと思われる。
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