研究概要 |
本共同研究は,近代西洋諸国家における民主運動を多次元的に論じることを目的とした。民衆的抗議運動は多様であり,抗議の諸形態の類型化にとどまらず,国家論理的視点を取り込みながら20世紀の国家・社会像を再検討することが可能となった。これが本研究の特徴である。 従来の比較政治史・社会史にあっては,「近代化」を「自由で平等な個人」が創出されてゆく過程を前提とし,これを阻害する要因を当該国家ないし社会の固有の文脈に即して説明しようとしてきた。その際「近代化」に伴う副産物としての様々な社会的矛盾が問われることはあっても,この前提自体を再検討する作業が十分であったとはいいがいた。本共同研究はここにさかのぼって,「近代化」の意味を問うものとなった。各論文が明らかにしたように,国家ないしエリート層による近代的秩序形成と民衆の抗議行動にみられる伝統的規範意識とは,単なる衝突で終わっただけではなく,現実には互いの行動を読み違え,あるいは「合成の誤謬」が発生することで,両者とも意図しない方向へと状況を導く局面があった。国家権力にとって民衆による抗議行動が攪乱変数であったように,民衆世界にとって権力機構が攪乱変数であった。両者がどこで折り合いをつけようとしても,この相互関係に「事件」が介在するこによって,統合的・合理的な道筋をつけて事態に対応しようとする国家権力による一方的な操作が思惑通りに実を結ぶわけではなかった。重要なのは,こうした国家と社会の関係を通じて,「公共性」が更新されていったことだと考えられる。
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