研究課題
基盤研究(B)
今日の社会史研究がたんに新しい事実の発掘ばかりではなく、歴史への眼差し自体における刷新であることはいうまでもない。マイノリティ問題はその典型例といえよう。とくに、この問題がどの地域、時代にも偏在している事実は、比較史的研究への新しい展望を開く可能性をもつ。今回の共同研究の最終的なねらいはこの点にあったが、作業の過程で多くの認識、発見があったにもかかわらず、なお体系的な比較考察にはいたらず、そのための基礎作業にとどまった。しかし、分担研究者による個別テーマのリサーチはこの問題の多様なありようを明らかにし、同時に、いくつかの重要な共通認識を示している。(1)マイノリティは、その時々のマジョリティとの関係において多様なあり方を示す。報告書の各論文は、古代ギリシアのポリス、中世のキリスト教社会、都市コムーネ、大学、ギリシア正教会、プロテスタント諸教会、国民国家、現代の大衆社会など、多様なコンテクストにおけるマイノリティの存在形態を、明らかにしている。(2)マイノリティの問題の分水嶺は、近代国民国家の形成に求められること。近代国民国家は、政治経済ばかりではなく、言語・文化・思想・意識を含めた人間存在の一元性、均質性を追及し、それに適合しない他者、逸脱者は押しなべて排除や同化の対象となった。「理性」「普遍性「自由平等」「人権」といった近代の諸理想は、ある意味ではこの同一化社会のイデオロギーであり、マイノリティはそこでは「非人間的」な「特殊な」存在として否定的に位置付けされざるをえない。(3)マイノリティの側のアイデンティティ形成の歴史的分析の必要性。抑圧、迫害という面ばかりではなく、彼らがいかに「対抗アイデンティティ」を形成し、独自の宇宙を形成したのか。資料的な困難ゆえに、ここではなお課題の重要性の確認にとどまった。
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