研究概要 |
縄文時代における主要な食糧源としてのクリの実の収穫と,重要な木材資源としてのクリ材の伐採という互いに矛盾する利用が継続的にいかに可能であったのかを明らかにするために,次の3項目を調査した.1)現在の二次林にどれだけのクリが存在するか,2)その二次林をどのように管理,利用すればクリが再生するか,3)現生の自然林及び遺跡出土のクリの遺伝的多様性. 1)現在の二次林のクリ現存量:青森県田子町,岩手県二戸町付近でクリを比較的多く含むと見られる雑木林(二次林)でクリは1ha当たり336本,その中で竪穴住居の建築などに使われると考えられる直径10cm以上のものは286本あることが分かった. 2)クリの再生 皆伐した雑木林のクリの萠芽再生:株当たり平均萠芽本数8.1本,平均高さ1.54m.石斧による抜き切りクリの萠芽再生:株当たり平均萠芽本数1.7本,萠芽枝の最大長31cm.チェーンソウによる抜き切りクリの萠芽再生:株当たり平均萠芽本数15本,平均高77cm. 以上の結果では石斧による伐採では萠芽再生が困難なことが予測されたが未だデータが不十分である. 3)クリの遺伝的多様性 現生野生集団のクリ(中国クリも含む)の遺伝的多様性,栽培クリの遺伝的多様性を調べるために,全国および中国,朝鮮半島からクリの試料を集める一方,マーカーとなる遺伝子領域の探索,実験手法の開発を研究協力者に依頼して行った結果,SSR(simple Sequence Repeat)マーカー開発の目処がついた.今後これを用いて,品種及び自然集団の解析が可能となる.一方,葉緑体DNAでは中国グリと日本グリの間には多くの変異が見つかり,この両者は比較的容易に識別できるが,日本グリ内では探索した領域ではわずかしか変異が見つからなかった.ミトコンドリアDNAでは中国クリ,日本グリとも変異は全く見つからなかった.
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